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   プロボクサーという職業 2階級王者「井上尚弥」インタビュー

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2016年の年末、鮮烈なKO勝ちでWBO世界スーパーフライ級王座4度目の防衛を果たした井上尚弥。現在の日本人世界王者は7人、スーパーフライ級では4人しか王者のベルトを巻けない厳しい環境の中で、井上は今や世界的にも注目を集めるプロボクサーへと成長を続けている。そんな井上が身を投じるボクサーの世界と言えば、減量やKO負けの恐怖など数々の困難が立ちはだかることで知られる。しかし井上本人は飄々と、そして内面に秘めた強さによって難なくクリアしている。それと同時に純真無垢な横顔もチラリとのぞかせる。ニュータイプの“怪物”は今何を考え、将来をどう思い描いているのか――。



今、日本ボクシング界で最も強いのは誰なのか――。こんな企画を立てたとしたら、トップの大本命となるのは間違いなくこの男だ。井上尚弥。



プロデビュー前から「怪物」として騒がれた井上は、アマチュアボクシングに励んでいた父・真吾さんがジムを経営していたこともあり、小学校1年生の頃から競技に取り組み始めた。幼少の頃からボクシングに触れたことで磨かれたスキルは天性のもので、高校1年生にしてインターハイ、国体、全国高等学校ボクシング選抜大会の3冠を達成するなど10代の頃から「怪物」扱いを受け、プロデビューがいつになるかが注目されていた。

そして2012年に大橋ジムに所属すると、日本人史上最速タイのプロキャリア4戦で日本王者、そして14年4月には同6戦目でWBCライトフライ級王者となると、同年12月30日にはWBOスーパーフライ級王者となる。わずか8戦のキャリアで2階級制覇を成し遂げ、昇り竜のような勢いでボクシング界を席巻している。



日に日に強くなるばかりの怪物・井上。そんな井上に訊いてみたいテーマは「プロボクサーってどんな職業なんですか?」。己の拳のみでサバイバルするボクサーは、リング上で何を考え、日々のトレーニングにどう臨み、そして普段の生活をどんな風に過ごしているのだろうか。

その秘密を探ろうと訪れたのは、横浜駅にほど近い大橋ボクシングジム。数々の名王者を生んだジムに現れた井上は、飄々とした表情でこう言った。

「実はプロボクサーって、トレーニングの時間以外は基本的に暇なんです」。

筆者があっけにとられる中、「もちろん年間通じて、しっかりと練習していますよ」と語った井上は、ボクサーとしての1週間の過ごし方をこう続けた。

「デビューして間もない選手だと仕事と並行している人もたくさんいますけど、チャンピオンクラスの選手になってくると、次の練習に向けてのケア、休養するすることが大事になりますからね。もちろん1年間常に練習するんですけど、基本的に週一日は休むようにしているんですよ。僕の場合は日曜日にオフを設定して、そのほかの6日間はしっかりとトレーニングを積むようにしています。大体ですが、午前と午後それぞれ2~3時間取り組んでいます。それを合計すると計6時間弱やってますね」。

ボクシングジムと言えば汗と血が滴る泥臭い環境というイメージがある中で、大橋ボクシングジムは誰もが気軽に来られるスポーツジムのような内装になっている。その中でトレーニングに励む世界チャンピオンは、どのようなライフサイクルで日々の鍛錬に臨んでいるのだろうか。

「ボクサーというとストイックなイメージかもしれませんけど、遊ぶときは遊んで、練習する時は練習するという感じでいます。もちろん、練習前は遊ばないですよ(笑)。練習後の夜に遊びに行くこともありますけどね。そこはプロとしてやっている自覚があるので、ジムに入れば自然と気持ちが入ってきます。そこからは誰にも負けないくらいの集中力を出すことを意識していますよ。ちなみに、カラオケも行ったりするんですよね。友達と遊びでよく行ってますよ」。

じゃあ、十八番の曲があったりとか?

「結構幅広いバリエーションの曲を歌いますよ! その中でも十八番か、何だろうな……最近はAAAとかですかね。キー、結構高いっすよね(笑)」。

日々の厳しいトレーニングを忘れて、羽根を伸ばしているんですね。こう質問をぶつけると井上は、ちょっと独特の表現で返してきた。「そうですね・・・というか、性格的に思い込まない、落ち込まないタイプなんで、やりたいことして過ごしている感じです。あとは練習がないときや練習が終わった後も、ボクシングの映像を見てたりしますね。そう考えると、気づけばボクシングに接しているのかなと。ボクシングを始めたのが小学校ということもあって、ボクシングを中心とした生活が、自分のものとして染みついているんですよね。普通の人たちも仕事するのと、遊ぶときの切り替えって、そんなにないんじゃないですか?」。

オンとオフをきっちり分けるとはよく言われるところだが、考えてみれば、社会人としての仕事、学生で勉強に臨んでいる普通の人々も、心の中で「さあ遊ぶぞ!」と切り替えている人はごく少数なのではないだろうか。そう考えると井上の融通無碍なボクサーとしての生き方は、多くの人々が何か学べるものなのかもしれない。

とはいえ、ユルい気持ちでボクサー生活を送っているわけではない。それをヒシヒシと感じさせるのはボクサーにとっての宿命ともいえる「減量」である。日々鍛え上げた肉体を各階級で定められた設定体重まで落とすことが求められるが、ボクサーによっては減量に失敗して自らの王座を手放す者、逆に自らの能力を出し切れないものが出てくる。井上にとってもやはり、減量は厳しいものなのではないか。そう話を振ってみると「減量は個人差がありますけど、みんながやってることだから特別にはとらえていません」と言ってのけた。

「ただ、自分は結構減量する方ですよ。MAXの時から8キロくらいは落とすんです。それだけの体重を1ヶ月くらいのスパンで落としていきます。普段の体重は60kg前後、試合は52kgなので。とにかく優先するのは食生活ですね。カロリーを抑えつつ体脂肪を落としながら、段階的に落としていきます。炭水化物やタンパク質など、必要な栄養素をしっかり摂って食事をしていればそんなに筋力も落とすことなく、体重を落とせるので。いい栄養を取り入れて、練習が終わったあとの食事ケアをどのくらいできるか。食事は昼と夜の2食、ほぼ同じ量です」。

よどみなく答えた井上だが、冷静に考えると、尋常ではない節制をしている。単純計算だが、体脂肪は1kgで約7200kcalという計算になる。約30日間でその8倍もの体重減に耐えながら、パンチの破壊力、スタミナを保つためのハードなトレーニングに励み続けるのだ。それだけに試合直前の軽量後の食事は格別だという。

「計量終わって食事したときは、体の中にサーッと入ってくるのが分かります。でも、終わった直後はしっかりと食べますけど、お腹を壊さない程度の量にしておきますよ。ゆっくりと慣らしながら、炭水化物をメインで食べるなど、ちょっとした工夫をするようにしています」。

またアスリートにつきものであるドーピング検査も「風邪ひいて薬を飲むときは一応飲んでるものを証明できるものがあれば、試合に出れますよ」とのこと。その辺りの管理もできてこそ、プロのアスリートなのである。

井上の非凡な才能を感じさせるのは、減量や日々の過ごし方だけではない。“恐怖心”が全くないのだという。リングに上がるまでのプロセス、試合開始のゴングが鳴る瞬間、そして対戦相手と殴り合っている瞬間。恐怖心を感じることはないのだろうか?もし相手のラッシュをもらってしまえば、そのダメージは計り知れないものがある。それも20代前半にして2階級制覇を成し遂げたということもあって、すべてのボクサーから標的とされる存在となっているのだから。



それでも井上はあっけらかんと、こう話す。

「もちろん闘志はあるんですけど、無心で戦ってますよ。恐怖心?ないですね。なぜかと言うと、一般の方を殴るわけではないので(笑)。これは冗談ですけど、リングに上がっている2人ともボクサーじゃないですか。お互い競技だという気持ちを持って臨んでますから。相手の意気込みだったり、思いっていうのは伝わってきます。試合前から会見があって、そこでの発言だったり、リングに上がって目を見れば気持ちは伝わってきます。以前、畑山(隆則=元WBAスーパーフェザー級王者)さんからは『リングに上がるまで、怖くて仕方ない』と話を聞きました。ただ自分の場合はむしろリングに上がることこそが楽しみですからね」。



怖さは感じず、楽しさが先行する。それだけナチュラルにボクシングという競技を楽しんでいることこそが、井上を日に日に強くするエッセンスなのだろう。その一方で、外国人ボクサーの“ずる賢さ”についても、こう明かす。

「反則で真っ先に思いつくのはバッティングとローブローだと思いますが、足を踏んだりするのも反則です。ただ海外の選手には、わざとそういった反則をやってくるタイプもいるんです」。

拳同士を交える以外にも、見えないところで駆け引きがある。とはいえその陽動作戦に乗っているようでは、世界では戦えないとも自覚している。

「日本の選手はそういうアンフェアな戦い方は教えられることはないんですけど、海外の選手は“レフリーに注意されなければそれも技術のうち”っていうメンタルで戦ってくる。反則が見逃されて、相手の有利に進んだとしたら、それはそれとして戦わなければならない。だからこそ、反則をしてくる相手を想定したトレーニングもしているんですよ」。



ここでふとした疑問が一つ。ボクシングが大好きでたまらない井上だが、嫌いなトレーニングはないのだろうか。

「基本的にトレーニングすることが大好きなんですけど、ロードワークはそこまで好きじゃないっすね(笑)」。

とはいえ、練習をサボるなんてことは、決してない。「毎朝、距離にすると8キロ前後走ってますね。その中でもテーマを決めて、瞬発力を鍛えるためにダッシュを多めに入れる日とか、スタミナをつけるために長距離を走り込む日とか決めながらやっているんです」と、自分の中でテーマを意識づけして臨むことが、武器である強烈なパンチ、そして軽やかなフットワークを生むことに繋がっている。

「やっぱり、実戦練習、スパーリングをやるのが一番楽しみですけどね」と言う通り、井上は自らの拳をどこまでも高めることに貪欲だ。実際、練習を見学すると、23歳の青年の表情は一変し、闘争本能の塊と化してミット打ちに集中していた。その一撃一撃は、数メートル離れていても風圧を感じるほどの威力だった。

ナチュラルに自分らしく生きて、強さを育んでいる井上。そんな彼が憧れるボクサー、人間は誰なのだろうか。

「ボクサーではないんですが・・・」と前置きすると、あの肉体派タレントの名を挙げた。

「武井壮さんを尊敬しているんです。一緒に食事する機会があったんですけど、普通のアスリートよりも、自分の体のことよく知っているくらいですからね」。そう話すと、武井とのエピソードをこう明かしてくれた。「トレーニング方法とかも独特なんですよね。武井さんから聞いた話なんですけど、自分が体を動かしているときの仕草で、特に背中など後ろ側の筋肉がどのように動いているって分からないじゃないですか?“それを全て知っておきたい”って言ってて、武井さんは自分の後ろにカメラを置いてどんな動きをしているのかって分析してるそうなんです。僕もやっていたかって?さすがにそこまでは気にしたことはなかったです(笑)。ただ、そういう考え方もあるんだなって学びましたね」。ボクサーだけでなく、自らにいい影響を与えてくれる人からは何でも吸収するのだ。

井上はクールに語りつつも熱い内面をのぞかせる。そんな彼には今後のキャリアにも大きく注目が集まっている。

「今は5月に予定されている世界戦に向けて練習に入っている段階です。スパーリングも開始した段階で、かなりピッチを上げていきますよ。合宿では砂浜や山道を走り込みなどやって、足腰をとにかく鍛えています」と眼光鋭く世界王座防衛への意気込みを語る井上。それと同時に今後のキャリア、そしてセカンドキャリアについても具体的なプランを持っている。「今は35歳まで現役生活を続けたいと思います。その時の自分の体のダメージだったり、どれくらい動けるかにもよるんですけどね。その後はジムを経営して、チャンピオンを育てたいなって思っています」。



10年以上の歳月を経た時、井上の実績、そして環境も大きく変化しているかもしれない。ここ近年、若き世代を取り巻く空気には何か停滞感が漂っている。井上自身、そのような空気感を感じつつも、自らが起爆剤となる覚悟を持っている。

「自分は、試合をする一つの思いとしては、夢だったり感動だったりは、常に与えたいなって試合をしてるんで…そういう感じですかね(笑)! 自分は会場、もしくはテレビを通して見てもらえるので、自分の試合を見て何か思ってもらえたらなと思います」。



飄々としていながらも、芯の強さと野心をひしひしと感じさせる井上尚弥。己の拳で世界一のさらに上をつかみ取ろうとする男は、プロボクサーという職業に行きながらも、2010年代に生まれた一つのロールモデルなのだ。



REPORTER:SATOSHI SHIGENO

PHOTOGRAPHER:YOSHIFUMI SHIMIZU

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